3-5 First Contact

「…………!!」
窓からぶら下がっている人影を見て、阿貴は驚きのあまり声も出ずそのまま固まっていた。
無理もない。
ありえない場所からありえない体勢でいきなり阿貴の視界に入り込んできたのだから。
長い亜麻色の髪を地面に向けてゆらゆら揺らしながらぶら下がる「それ」は、とても無邪気なあどけない顔で、こちらを見てにっこりと笑っている。
一見してそれは少女のようで。

(何で女の子がこんなところで…?)
まさか幽霊、とも勘違いしかけたが、それを否定するように、窓ガラス一枚隔てていてもよく通る高い声で、
「ねーぇ、開けてよぉー」
と、呼びかけられて。
もう一度こんこんと叩かれて、阿貴は慌てて窓を開けた。

すると、開いた窓からひらり、と一回転して部屋に飛び込んできた。
音もなく着地すると、彼(?)は驚いて呆然としている阿貴ににっこり、と微笑み、
「ねぇ、もしかして君、この部屋?」
と聞いてきた。
「はい…そう、ですけど…」
阿貴が頷くと、彼はこれ以上ないほどの笑顔になって、
「わーい、やっと来てくれたんだぁ!ぼく、阿久津成美。よろしくねvv」
ハートマークを飛ばしながら阿貴の手を握ってきた。

こちらの想像とは180度かけ離れた陽気で人懐こい成美に圧倒されてその大きな目をぱちくりさせていた阿貴だったが、相手が名乗ったのを受けて、ようやく、
「う…宇都宮…阿貴です…」
どうにか自己紹介を済ませた。と、言うより名前を名乗るのが精一杯だったのだが。
改めて成美の顔を見る。
背中まで伸びる亜麻色の長髪。
顔貌など自分と同い年どころか中学生でも通じそうな童顔で下手したら女の子と言われても違和感がない。(それは阿貴も人のことは言えないが)
この寮にいるんだから男であることは間違いはないだろうとは思うのだが。(自分も一旦女と思われて追い返されかけたのだから)
それでも気になって、自分がいつも言われてる失礼な事を聞いてみた。
「阿久津さん…って、男ですか?」
と。
成美は、それに嫌な顔一つしないで、
「あははは、やっぱり言われちゃったか。誰も一発で男だなんて思ってくれないもんねぇー」
まぁいいけどぉ、と付け加えて。
「ぼく、男だよ。それと、成美、でいいよぉー」
と、彼独特の年齢不相応の(でもその外見にはぴったりの)幼い口調で、言った。

その名前と、その顔で男だと言われても。
阿貴は常日頃自分がそう思われていることを棚に上げて、思った。
春海が「気をつけろ」と言ったからには、どんな不良なのかとある意味覚悟を決めていた阿貴だったが。
そのイメージとはかなり(全くかもしれない)かけ離れていて。

そして成美のほうも。
(この子…すっごく可愛い…)
阿貴を見て誰もが抱く思い。
自分より一回り小柄な身体。襟足近い無造作に伸びた黒髪。そして澄んだ大きな瞳に引き込まれるような感覚に。
成美はすっかり惹かれていた。
(春海にはあんなこと言われたけど…どうしよう…)
先に春海に言われていたことなど、頭から消え去りそうで。

(本気でやっちゃうかも…)

阿貴のその目に魅入られるように、成美はその横にちょこん、と座って。
甘えるようにその身体に寄りかかっていた。

「な…何…ですか?」
成美のいきなりの行動に、目をぱちくりさせる阿貴。
その次の行動など、まるで予想できずに。


To be continued...


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