3-6 丁度その頃上級生二人は。


ところ変わって、こちらは阿貴を部屋に案内して入り口へ引き返す春海と誠伍。
「あー…痛ってー…あの女、ほんのシャレのつもりだったのに、ガチで肘打ち食らわせるんだもんなー…まだ痛いぜ…」
と、ぼやく春海に、誠伍が、先ほどまで春海が居なかったのを気にして、問いかける。
「春海。ところでお前、さっき何をしてたんだ?」
「あー?」
この大事なときに寮長であるお前がどこへ行ってたのか、と言うと。
「ちょっと、な」
すっとぼけた口調で、返してきた。
「ごまかすな」
「何もごまかす必要ないだろー?ただ、成美に新しいルームメイトが今日やってくる、って伝えに行ってただけだっつの」
あいつ甘えっ子だからすげー喜んでたな、と付け加えて。
笑いながら言う春海に、誠伍は心配げな表情で、
「…余計なこと仕込んだんじゃないだろうな?」
と、言った。

誠伍が言う、余計なこと、とは。
昨年自分が青碧に越境で入学してきたとき、同室になった春海に迫られたことだ。
あの時は、らしくなく狼狽した姿を晒してしまい、堅物を地で行く誠伍の現在の地位と名声と相まってごくごく一部では未だに語り草だ。
もちろん冗談で済まされたが。
前寮長によると高等科から青碧に入ってくる新入生を一人ピックアップしてその手の悪戯で驚かせる風習があるらしい。

「ぷ…あっははははははは!何だ誠伍?お前まだあの時のこと根に持ってるのか?」
単なるシャレじゃねえかよ、と笑いながら自分の隣の肩をバンバン叩いて。
「シャレにしては悪趣味すぎだ…」
「何?お前は本気だったのか?」
茶化すようにニヤニヤ笑いながらその整った顔を下から覗き込むように見上げる春海に、誠伍は、
「馬鹿者」
とその頭をすぱーん、と平手で軽くはたいて。
「いってー…俺だって冗談じゃねえ、芝居じゃなきゃ誰がんな事やるかってんだ…」
大げさに頭を押さえながらぼやく春海。
「あの時はお前だから笑って済ませられたが…今度は相手は成美だぞ」
「だーかーらー、何でそうやって俺が変なこと仕込むって決め付けるんだ?」
「お前と成美の性格はこの一年の付き合いでよくわかってるからな」
「疑心暗鬼が激しすぎると将来ハゲるぞ」
「俺は相手の子の心配をしてるんだ。よりによってあんな…」
と、言いかけて言葉を切った誠伍。
阿貴を一目見て女の子と思い込んでいたから、しかし、男だとわかってこれ以上言わず。

………可愛い子だなんて。

阿貴を初めて見た大概の男なら思うこと。
成美で免疫が出来ているとはいえ、男男してなさ過ぎるその外見に心配になったのだ。

「部屋割り決めたのはお前だったな。これでもし何かあったら、どう責任を取るつもりなんだ?」
「だからー…俺が成美に何か仕込んだように決め付けるなよ」
…100パーセント嘘じゃないけどな。
とは、口が裂けても言わないが。
「心配しなさんなって、万が一何かあったらちゃーんとオレが責任とってやるから」
この場はこう言って誤魔化しておこう、と思い、春海が言い出したその直後のことであった。

to Be Continued...

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