3−2 玄関口でのちょっとした出来事

成美と春海が部屋でなにやら怪しげな相談をしていた同じ頃の寮の玄関口でのこと。
そこでは、2人の男女が話をしていた。
男のほうは、身長170半ばくらい、がっちりした体格で、髪型は角刈り、少々強面。
女のほうは、男より10cmほど低くて、ショートカットのお嬢様然とした気の強そうなタイプ。
「この忙しいときに春海の奴は何をしてるんだ…」
新寮生の受け入れ準備に追われていた男が、ぼやく。
「相変わらずなんだから…。あんなのが新しい寮長だなんて、本当に大丈夫なの?堀居」
「大丈夫も何も、斉藤さんのご指名には逆らえないだろう」
堀居、と呼ばれた男は、さらに。
「あの人の見る目は、確かだからな」
とも、言った。
「まぁ、確かにね。でも、あんたという選択肢のほうがもっと適切じゃないかと私は思うんだけど?」
「俺は色々と忙しいんだ」
「そうね」
その言葉にあっさり納得した彼女。
「それよりも、島。向こうのほうは行かなくてもいいのか?女子寮の新寮長がいつまでも不在だと困るだろうが」
「そうね。さすがにそろそろ行かなくっちゃね」
と、島、と呼ばれた彼女が玄関のドアを開けようとした丁度その時のことであった。

かちゃり、と玄関のドアが開いて、人が入ってきたのだ。
小柄な体格で、その手にはそれに不釣合いな重そうな荷物を抱えて。
その様子から新入寮生であることは即座に察せられたが。
「…?」
堀居は怪訝な顔でその人物を見つめている。
なぜなら。
その外見が少女のものだったからだ。
ここは男子寮である。
「…君、新入生?」
島が、そう聞くと、
「はい、あたし、西条唯貴って言います」
その言葉遣いと一人称で、やっと堀居は確信した。
口を開くより先に、島が、
「だったら、キミ、場所間違えてるわよ?ここは男子の寮。女子の碧林寮は道路挟んで向かいなの」
「あ…」
時たまこういう風に間違える新人もいることがある。
なぜなら、双方の寮は向かい側に建てられていて、しかも見た目が同じつくりだからだ。
「ごめんなさい、間違えてました」
ぺこりと頭を下げて玄関を出ようとしたとき。島が、待って、と声を掛ける。
「じゃ、丁度良かったから一緒に行きましょ?私、あっちの寮長の島霧子。あとは向こうで案内するわよ」
そう言って、後ろの堀居に、またね、と声を掛けて唯貴と一緒に玄関を出た。

時間にして10分かそこらで、霧子は戻ってきた。
「ただいま」
自分がいるべき女子寮は向こうなのにそんな挨拶で帰ってきた霧子。
「早かったな。…て言うかいなくていいのか?」
「ん。どーせ向かいに送ってっただけだし。それに、何かあったら私の携帯に入れてって言ってあるから」
その言葉を言い終えるのとほぼ同時に、玄関から新入生が次々と入ってきた。
手際よく手続きを済ませてなんとか新寮長抜きで一段落ついて。

その時、玄関のドアが開いた。
入ってきた人物を見てまた堀居と霧子は驚いた。
先ほど男子寮と女子寮を間違えてここにやってきた少女がまたやってきたのだ。
「あれ?君は…さっきの…?どうしたの?」
先ほど一緒に寮まで案内して、またわからなくなるとはとても思えずに。
きっと何か困ったことがあったんだろうと思えなくはなかったがそれにしても他にも寮に先輩はいたはずだと思い、その少女を見る。
だが。
既に部屋についているはずなのに先ほど同様にその小さな身体に不似合いな重そうな荷物を持って、こちらの反応にきょとんとした顔をしている様子に、
「あれ?…何か感じが違うわね?」

何を言ってるんだろう、この人たちは…
駅から歩いてきて重い荷物を引きずりながら、やっとの事でこの男子寮にたどり着いた阿貴は、いきなり向けられたこんな言葉に、怪訝な顔で見知らぬ先輩を見やっていた。
そこへ、角刈りの男が近づいてこんな言葉をかけてきた。
「あのねぇ…ここは男子の寮で、女子の寮はあっちだってさっきこの人から教わらなかったかい?」

そういえば。
ここに来る前に唯貴に会ったことを思い出した。
阿貴は買い物があるのでと一緒にバスに乗って行こうと言う唯貴の誘いを断ったのだが。
多分彼らは先に着いた唯貴と自分を間違えて、こんなことを言ってるのだろう。
初対面で見分けがつかないのは受験のときの事件で思い知っている。
しかし。それ以上に。
端から自分を女の子と決めてかかっている目の前の男に腹が立って、相手が先輩だと言うことも忘れて、
「僕は男ですっ!」
と、大声で叫んでしまった。

To be continued...


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