2-2 帰り道でのたわいもない会話

その日の帰り道の事。
下校時間で人通りも多い通りに秀人の大爆笑が響き渡ったのは、阿貴が一樹のバカ話を聞かせた直後のことだった。
「は…腹いて…」
「笑い事じゃないだろ」
言われてるこっちの身にもなれ、と、むっすー、とした顔で秀人を睨みつける阿貴。
「ま。俺も何考えてんだ、あのバカ、って思ったけどな。奴らも本気で言ってるわけじゃねえだろ」
気にすんな、と、笑う秀人。
阿貴は一つため息をついて、
「つくづく僕はうちの連中はバカばっかりかよ、と、思ったよ」
そのバカの筆頭が一樹なのだが。



そのせいで。
阿貴はあの時出会った、自分そっくりの美少女のことを思い出していた。
変な意味ではなく、ただ純粋に。



このところの忙しさでじっくりと思い出すことはなかったが、頭の中では、いつも彼女が片隅にいた。
ただ自分と似ているだけではない、何かを。
彼女の中に感じていたのである。



もちろん、あれから彼女と会うことは、ない。
なのに、いや、だからこそ。
阿貴の中で気にかかっている物がもどかしく思えた。
一旦考え出すと、思考がそれに囚われ、どんどん考え込んでしまう。
隣を歩いている秀人の事など、すっかり忘れていた。



「おい、…阿貴?」
さっきから話しかけているのだが、まるで自分の声が耳に届いていないかのような阿貴の様子に、
「おいっ!」
と、軽くその頭を叩いた。
「わあっ!」
軽く、とは言っても、秀人の人並み外れた腕力と、阿貴のこれまた人並み外れた小柄で華奢な体格と相まって。
阿貴は、2,3歩前のめりにつんのめった。
転んでしまうところを何とか堪えて。
「何するんだよ!」
我に返り、後ろの大男に向き直る。
「お前こそ何してるんだよ、さっきから。俺の話、ちゃんと聞いてたのか?」
「え?」
阿貴のこの反応に、秀人は呆れてため息をつく。
「…だから、明日だろうが、青碧の合格発表。一緒に見に行こうぜ、っつったのに、何ボーっとしてんだ、お前は?」
「あっ…別にボーっとしてたわけじゃ…」
「してただろうが」
そんな事ない、と言おうと思ったが、秀人の話が聞こえていなかったのは、事実。
「……っ…ごめん」
何か言おうとして、口ごもり、間があって、阿貴は秀人に謝った。
「…お前、本当に大丈夫か?んな事だから、あの日、寝坊して来るんだ」



そう。
「あの朝」の後、秀人にそんな事情を説明して。
「お前はうだうだ考えすぎてるか、ボーっとしてるかのどっちかだな」
と、笑われたものだ。
…お前と違って、神経あるからな。
仲が悪かった一年の時なら、即座にそんな言葉が口をついて出てきたであろう。
昔だったら、売り言葉に買い言葉ですぐそんな喧嘩になるところで。
だが、今では。
お互い認め合う仲になってからは、そういう時、布団に入れば3分で熟睡できる秀人を羨ましく思える位で。
阿貴はあの時は素直に、
「…ごめん」
と、謝ったものだ。



「…今更そんなの蒸し返すなよ…わかったよ。それで?明日どうするの?」
「じゃ、8時半に碧駅な」
「前みたいに紺碧町じゃないの?」
「いや、この間ので、懲りた」
この間、というのは、もちろん、「あの日の事」。
「いーか?また今みたいにボーっとしてたら、襲うぜ」
自分で懲りた、って言ってるのに、全然そうは思えない。
「お前こそ、遅れてくるなよ」
ちょうどいい所で分かれ道について、この日は別れた。


To be continued...

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