2-3 A Misterious Girl



秀人と別れて、一人になった帰り道での事。
阿貴はまた、「彼女」の事を考えていた。
何かが気になる。
一旦考え出すと、それが頭に絡み付いて、なかなか頭から離れない。



歩いていると、不意にその彼女の姿が自分の左側に見えた。
「!!」
阿貴は、驚いて、その方へと見やる。
まさか…
と思ったが、違った。
商店街のウインドウに映った自分の姿だったのだ。
「………」
何をうろたえてるんだ、僕は…
冷静に考えたら、彼女の聖北中は、阿貴が通う海南中とは全く逆方向。
こんな所に、彼女がいるはずがないだろう、と思い、阿貴は一つため息をつく。



そして、一つ思う。
どうして僕は、そんなに彼女の事が気になってるんだろう………
鏡で自分の姿を見るのが嫌いな阿貴が、今日は、ウインドウに映った自分の姿を、「彼女」とダブらせていた。
そこへ。



「そんなに、気になるの?あの子が」



「………!」
驚いた。
突然後ろから聞こえた、少女の声に。
言葉に出したわけじゃないのに、自分の心の中まで見透かしたような、この発言に。



「だ…誰っ!」
つい大声になって、後ろを振り返る阿貴。
そこには。
見た事がない学校のブレザー、背は阿貴よりも少し高め、長い髪を後ろで纏めている、眼鏡をかけた少女が立っていた。
彼女は、驚いて目を丸くしている阿貴を見て、無邪気に悪戯げに笑っている。
「そんなに大仰に驚くことないじゃない。何も取って食おうって訳でもなし」
いきなり背後から見知らぬ人に声を掛けられて、驚かない人間は少数派だろう。
だが、彼女はそんな事には全く意に介さず。
「あたしは、ずっと君の事、知っていたわよ。君はあたしの事なんか知らなくても、ね」
初対面に、いきなりこんな事を言われても、阿貴には何を言っているのか全く判らない。
「な…なんだよ、それ」
「ふふ、いきなりこんなこと言われても、訳わからないわね」
ごもっともな言葉だが、彼女の真意はそこにはない。
次の言葉が、阿貴をさらに驚かせた。
「ねぇ、宇都宮阿貴ちゃん」
「………」
ちゃん付けされた恥辱よりも、全く見知らぬ少女に自分の名前をフルネームで言い当てられたことの驚きがはるかに勝って、阿貴は言葉を失った。



「君は…一体…」
少しの間があって、やっと出てきたのはこれが精一杯。
そんな阿貴の様子を面白がるように笑って、
「偶然の出会いじゃないわ」
また、脈絡のない言葉で。
何が、と言葉を継ごうとする阿貴の機先を制して、
「これは、必然。君があの子と出会ったのも、今、あたしたちがこうして顔をつき合わせて話しているのもね」
「それ…一体どういう事なんだよ?」
「ごめんね、今は、まだ、言えない。いずれ判るわよ」
わざわざ自分をとっ捕まえて、何かを言いかけておいて、肝心なことははぐらかすなんて、ふざけてる。
「いい加減にしろ!!わざわざ何しに来たんだよ!!」
自分を呼び止めておいて、こんな訳のわからない言動をする彼女の態度に怒り心頭に発して大声で怒鳴りつけた。
だが、彼女はそんな阿貴の様子を意に介する事無く。
「くすすっ」
悪戯っぽいからかうような笑みを浮かべて、
「あたし、藤村翔子。また明日、会おうね」
とだけ言い残して、その場を走り去っていった…


一人残されて、その場に立ち尽くすだけの阿貴。
「一体何なんだ…」
あの微笑に毒気を抜かれて、はぁ、とため息一つ。



僕とそっくりな少女、西条唯貴。
なぜか僕のことを知ってる、藤村翔子。
頭から離れないことがまたしても増えてしまった。
阿貴はそう感じていた。

To be continued...

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