Scene 4 Girls Side Story


4-1 西条唯貴とその相方・目覚めの風景


青碧学園高等科女子寮・碧林寮。
男子寮・青光寮と対を成す、高等科の施設である。
当然、寮生は女子のみ。
男子禁制と言うわけでもなく、寧ろ両寮の交流は盛んな類なのであるが、それはまたの話で。


「んっ…」
窓から差し込む陽の光に、唯貴は目を覚ます。
寮に入って、3日あまり。
目覚めて見上げる天井の違いにもようやく慣れてきて。
「あ・ゆー?おはよ」
自分が寝ていたベッドの傍から、聞こえてくるのは同室の声。
その声に、未だ眠い目を擦りながら、唯貴はむくりと、その身体を起こした。
その先には、茶色がかった長髪を頭の後ろでポニーテールにして結んでいる少女。
人のよさそうな笑顔でにこにこと笑いかける彼女に、
「おはよ…」
と、ようやく慣れてきた視界に飛び込んできた姿に、唯貴は驚いて目を見開いた。
「…あんた、何てカッコしてるの!?」
彼女の姿は上下ともに白で統一されたインナー。その上にキャミソールを着ていて。
身体のラインがすぐに解る下着姿。
しかし、唯貴のその声にも、このルームメイトは全く動じない。
それどころか、唯貴が寝ているベッドに乗っかって、
「いーじゃん、別に。どうせ女子しかいないんだし」
先の笑顔のまま、彼女・芥川玲は、唯貴に擦り寄る。
「そういう問題じゃないでしょ!」
「なぁに?あたしのカッコに興奮したのぉ?」
「何バカな事言ってるのよ!降りなさいっ!」
「ヤダ」
こんなやり取りをしながらも、玲は唯貴の身体に馬乗りになるようにのしかかって。
「そんな事言うゆーは、一体どんな下着なのかなー?」
悪戯っぽい、ある意味妖艶な、とも言える笑顔で、唯貴の着ているパジャマに手をかける玲。
「あんた…何する気なのよ?」
「んー?大した事じゃないわよぉ?ただ…」
言いながら、そのボタンを外していく玲。
「やだ…やめてよ玲…っ」
「いーじゃん。恥ずかしがらないで…おねーちゃんに見せなさいっ」
「きゃー!」
半ばパジャマの中のシンプルな下着が玲の視界に触れたところで、その手を引っ掴んで、無理やり引っぺがして、ベッドから突き落とすようにその身体を引き剥がして。
とどめにぽかり、と頭に拳骨一発。


「いったーい…ほんのスキンシップでしょー?そんなに怒らないでよ」
唯貴に叩かれた頭を抑えながら、それでも反省の色をほとんど見せない玲。
「あのねー…あんたはスキンシップで人の服脱がせようとするの?」
「肌と肌の触れ合いこそスキンシップの本当の意味だと思うけどなぁ」
「やっていい事と悪い事があるって解らない?」
「だってここは青碧だし」
その言葉に、唯貴は思いきり脱力した。
だからって何をしてもいいわけじゃないでしょ、なんて当たり前すぎる言葉を述べたところで、入寮以来何度となく聞いてきたこの言葉の前には、無力なのだ。
事実、男子寮に入った自分と瓜二つの少年が、入寮早々同室の者に何かされたとか言う噂が耳に入ったくらいで。


青碧学園には、とりわけこの寮には変わり者が多い。
日本全国津々浦々から様々な個性溢れる学生がこぞって入学してくる青碧学園。
その前評判からある程度の覚悟は固めていたつもりの唯貴だったが、この同室の者からしてその常軌の逸しっぷりは想像の範疇を超えていたのだ。



初日に阿貴が成美にされたようなことまではされなかったものの、この玲も似た様な気質なのか、前述のような調子で事あるごとにくっついてくるのだ。
それも唯貴だけにではなく、他の女子に対しても同様に。
「あたしにそっちの気はないんだけどなぁ…」
ため息混じりに、そう呟く。
中学時代にもそういう経験は無いわけではなかった。
持ち前の姉御肌でバレー部のキャプテンも勤めていた唯貴は男子にも女子にも人気があった。
一部の女子からは実際にラブレターも貰った経験もある。
それは尽く丁重にお断りしていたのだが。


そんな事を思い出していると、普段着に着替えた玲から声がかかった。
「ゆー」
「何よ?」
ちなみに、ゆー、とは唯貴のニックネームである。かな書きにすると、ゆうき、と読む。
「ゆーは、こっちでもバレー部に入るの?」
「ん。そのつもりだけど…なんで?」
「不思議だなーって思ってね」
玲がこんな事を言い出すのも無理は無い。
唯貴は中学時代地区の選抜に選ばれるほどの選手で、その名前は同世代のバレーをやってる連中の間では知らないものはいないと言われるほどなのだ。
青碧学園と言えば名だたるスポーツ弱小校。
彼女の実力からすれば、つりあうものではない。
「そりゃあたしの好き好きでしょ?」
「そうだけどー…ゆーくらいの実力なら四高とか白女とか愛女あたりがほっとかないでしょ?」
その道の強豪校の名前を上げて、言う。
「あたしが自分で決めてここを選んだからいいのっ。それより玲はどこか部活入らないの?」
「あたし?」
逆に問い返されて、玲はきょとんとした顔になった。
しかし、直後に笑いながら、
「あははは、折角だし何かしたいなーとは思っているのよね。いっそゆーと一緒にバレーやろっかな」
「中学じゃ何もしてなかったんだ?」
「ん、帰宅部だよ。あ・でもあたしチビだしバレーはちょっと荷が重いかも」
「ちょっとーそれあたしへの嫌味なの?」
目の前の少女に向かって目を吊り上げて睨む唯貴。
「そんなつもりじゃないわよぉーごめんね?」
悪戯っぽく笑いながら、先の失言を謝る玲。
実際玲と唯貴は体格的にさほど差はない。寧ろ僅かに玲の方が背は高いくらいだ。
どちらも小柄だと言う事では共通しているが唯貴にはそれが気になるらしい。


「あ・でも…」
「どうしたの?」
言いかけて口をつぐんだ玲に、訝しげな顔で問いかける唯貴。
「バスケ部はちょっと…勘弁かな」
「なんで?」
これまでバレー部のみならず色々な部活を上げていた玲がそこだけは、と言う台詞に、唯貴が、きょとんとした顔で問いかける。
「バスケ部には…あの人がいるもの」
「あの人?」
なお意味がわからない。
「知らないの?」
当たり前である。なにせ入寮して僅か3日なのだ。
誰がいる彼がいるなどと、たったそれだけの日数で全て把握し切れようが無い。
だが、玲はそんな唯貴に対して意味深に笑って、
「いずれわかるわよ。ゆー可愛いからね」
はぐらかすかのような玲の言葉に、唯貴はさらに首を傾げた。


Back

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送