2−4 合格発表当日の3人組+α


翌日。
この日は青碧学園の入試合格発表の当日である。
やや肌寒いが、快晴の空の下、学園へ向かって走る2つの人影。
「何やってんだ、早く来いよ」
「別にそんなに慌てなくてもいいだろ。どうせ結果はわかるんだし」
息せき切って走る秀人と、それについていく程度に小走りの阿貴。
(…何をそんなに張り切ってるのか)
阿貴は思う。
さらに、
(自分で言い出しておいて、結局時間通りに来なかったくせに)
とも。


この日は普段どおりに阿貴はちゃんと時間通りに来ていて。
秀人のほうが10分遅れで待ち合わせの駅にやってきたのだが。
「悪い!ちょっと遅れちまった」
と、謝るのはいつものことで。
「お前は…」
こんなやり取りに慣れきっているために最早何も言うことはなく。
そこから秀人は詫びもそこそこに足早に電車に乗り込んで。
降りてからもこんな風に走ってきているのだ。


秀人が張り切っているのは、合格発表の掲示板が少しでもよく見える場所を確保したいからだ。
それならば遅刻などせずに(試験でもないのだから遅刻と言う言い方は当たっていないかもしれないが)もっと早く来たらいいのだが、そんないい根性こそ彼の彼たる所以である。
確かに数多くの受験生が見に来るためにその周辺は早くも黒山の人だかりなのだが。
「お前は人よりでかい図体してるんだからそんなに無理して前に行かなくてもいいんじゃないのか?」
身長190cmの秀人を見上げて阿貴がそう言ってみると帰ってきた答えは、
「こういうものは、前で見たほうが縁起がいいんだ」
そんな、意味も根拠もわからない返答に、阿貴は軽くため息をつく。
「それに」
秀人はそう言って人より小柄な友人に、
「ちっちゃいお前の為に場所作ってやろうと言う俺の気遣いがわからんか?」
と言ってきた。
阿貴はむっとした顔で、
「お前…僕がそれを気にしてる事知ってて言ってるのか?」
中学3年にして151cmしかない身長は阿貴の最大のコンプレックスの一つだ。
そこをつつかれると相手に悪気がないとわかっていてもむっとしてしまう。
そんな阿貴の心理を知ってか知らずかその言葉を綺麗にスルーして、
「それよりも早く来いって!もう出てるぞ!」
人ごみの中でもまず見失われることのない長身とその大声に周囲の視線が集まる。
「うるさいよっ!」
負けじと大声になってその後ろを追いかける阿貴。


その途中。
「…ったく、何でアイツはそんなに張り切ってるのかね?よっぽど自信があるのか?」
聞きなれた声が人ごみの中から聞こえた。
その声に振り返る阿貴に、よぉ、と声を掛けてきたのは一樹だ。
「…一樹?何でお前がここにいるの?」
「あのな…オレもここを受けていたんだよ」
その言葉に大きな目を見開いて吃驚した顔を見せる阿貴。
一樹からそういう話をたった今まで聞いたことがなかったからだ。
「…初耳だぞ?」
「当たり前だ、言ってねーもん」
教室も別だったしな、と一樹はけらけらと笑った。
「後でお前らをびっくりさせてやろうと思って言わなかったんだよ」
その言葉に阿貴はサラリと、
「それで落ちてたら目も当てられないけどね?」
きつい一言を叩き込む阿貴に一樹は俯いて、
「お嬢…本当にお前って…きついな…」
可愛い顔して可愛くないこと言いやがって、とぼやく一樹。
と、そこで顔を上げて、(身長差があるので顔を上げたといってもちょっと視線を動かしただけだったが)
「ってか、お嬢まで見に来る必要があるのか?お前なら確実に受かってるだろ?」
と言った。
確かに模試の結果も合格圏内をキープしていたし、当日も変わらず結果を出せたと阿貴自身も思っている。
しかし、結果は見なければわからない。
「つき合わされたの。秀に無理矢理。それに、絶対って事は無いから見ないとわからないだろ」
そこへすでにかなり先に行っていた秀人の大声が響き渡る。
「何もたもたしてるんだ!早く来いっての!」


ただでさえ目立つその風貌にこの大声。
すっかり周囲の注目を浴びる事になったがそれを気にするほど繊細な神経は秀人には無い。
阿貴と一樹はそんな秀人と同類と思われない程度にいそいそと人ごみを掻き分けて前へ進んだ。


そんなこんなでどうにか秀人の元へたどり着いて、開口一番。
「お前…恥かしいからそんな大声で叫ぶな…」
呆れ半分、疲労感半分の口調で阿貴が言った。
「全く…付き合ってるこっちが恥かしいぜ…」
そんな一樹の言葉に、誰もお前に付き合ってくれと頼んでいないぞ、と突っ込もうかと思ったが阿貴はそれはやめておいた。
「あれ?カズ?お前が何でここにいるんだ?」
阿貴と全く同じリアクションを返す秀人に一樹は笑いながら、
「びっくりしたか?」
「アホ」
にべも無い秀人の一言に一樹は、どいつもこいつも、と言葉には出さずにぼやいたが、2人はそれに見向きもしないで、すでに学園正面玄関入り口に来ている合格発表の掲示板に視線を向けた。


「よしっ!あったぜ!」
最初に声が上がったのは秀人。
そこへ一樹が、
「オレもだ」
と続く。
その声に阿貴は思わず「嘘だろ?」と言ってしまった。
素行に問題があるものの成績は悪くない秀人に対して、テストの成績がいつも芳しいとは言えない一樹が受かっているのだから無理もない。
そんな阿貴の態度に一樹は、
「お前な…オレが受かってたらおかしいのか?あるんだからしょうがないだろ?それよりもお嬢はまだ見つからないのか?もしかしてちっちゃくて見えないのか?」
そう言いながら阿貴の頭をぽん、と撫でた。
子ども扱いされているようなその態度と、ちっちゃい、と言う言葉に腹を立てながら阿貴は、
「あったよっ!」
と、その脛を蹴り上げた。


To Be Continued...


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