1-7 誤解が解けて


「秀…何してるんだよ…」
あまりの事にしばし固まっていた3人の中で最初に口を開いたのは阿貴のほうだった。
阿貴も唯貴もお互いの顔を見合ったまま。
この瓜二つの2人の顔を交互に見てパニックに陥っていた秀人が、
「あ…阿貴?お前なんで…阿貴が2人?一体どうなってんだ?」
秀人がそううろたえるのも無理からぬこと。
遠目とはいえ確かに自分は十数分前に先にバスに乗り込む阿貴の姿を駅で見ているのだ。
そのはずなのに今目の前にいる阿貴は一体…
そんな秀人にさらに阿貴が怒鳴りたてる。
「お前他校の女の子相手に何してるんだよ!」
「ちょっと、一体どういうことなの?」
「2人の阿貴」が前後から同時に秀人に詰め寄る。
この声までよく似ている2人に圧倒されてたじたじになっている秀人は最初からいた阿貴(つまり唯貴)に向き直って、
「じゃあ…おまえ、本当に阿貴じゃないのか?」
「だからさっきから何回もそう言ってるじゃないの!」
そう言うと唯貴は秀人から目を逸らしていまだ収まらぬ怒りの矛先を目の前の自分に瓜二つの少年に向けた。


「じゃ、君が彼の行ってたアキって子だったのね!一体どういうこと?あたし、彼にいきなり抱きつかれたのよ!君と間違われて!」
阿貴の目が一瞬点になった。
が、すぐさまきつい目になって隣の秀人を見上げて睨む。
さらに唯貴が続ける。
「イキナリよ。どうやら彼、あたしを君だと信じて疑ってなかったみたいね。あたしがいくら違うと言っても全く信じてくれなかったくらいだから。あたしも今目の前で見るまで信じられなかったけど。まさかこんなにそっくりな、しかも男の子がいたなんてね」
「お前…」
その唯貴の言葉を聞いて、秀人を睨む目が一層怖くなる。
慌てて秀人が、
「ち…ちょっと待て、阿貴。大体お前が悪いんだぜ?まさかお前のほうが遅れてくるなんて思わねえじゃねえか…」
「それで?」
「てっきり先に行ってると思ってだな。そしたらこいつがいて…今日に限って待っててくれねえなんて酷いだろと思って…ちょっとからかってやろうとしたらこの始末だ」


なるほど状況はよくわかった。
だが。
いくらよく似ているといっても、いまだに自分と彼女の明確な違いに気づかない秀人に業を煮やして、阿貴は怒鳴りたてた。


「………お前は………ばかずきみたいな事してるんじゃねえよ!確かに僕が遅れてきたことは謝るよ!だけど…もっとよく見ろよ!彼女を!全然違う格好してるじゃないか!」
言われてみれば確かに。
唯貴の今の服装は濃紺のセーラー服。時期と場所を考慮すれば、どうあっても男が、しかも自分が女の子のように見られていることを極度に気にしている阿貴が着ることなど天地がひっくり返ってもありえない。
阿貴と秀人の服装はオーソドックスな学ランである。


阿貴は、ふぅ、とひとつため息をついて、
「…とにかく、彼女に謝れよ、秀」
「わかったよ。…悪かった」
謝り方がやや無愛想なのは、秀人に反省の色がないからではなくて、こういう状況に慣れていないだけである。
そんな秀人の性格を知っている阿貴が、
「ごめんなさい、僕からも謝るから」
事の大本は自分が待ち合わせに遅れたからだと知って、連れて謝った。
その様に唯貴は笑顔になって、
「もういいわよ、許したげる。あたしもつい頭に血が上っちゃったから、おあいこよ。………あーあ、すっごく緊張してたのに、君たちのおかげですっかり吹っ飛んだわ。その意味でも、ありがたいかな」
そこで唯貴が思いついたように、
「あ。そうだ。名前、教えて?あたし、西条唯貴。聖北中よ」
と自己紹介した。
それに習って阿貴が、
「僕、宇都宮阿貴。海南中です」
その後に秀人が続ける。
「高杉秀人。同じく…よろしく」


この自己紹介で朝の一連の事件が一応の解決を見たのを知った野次馬どもが、ざわざわとしながら自分の席に戻っていく。
そこでちょうど始業ベルが鳴った。
もうすぐ、試験が始まる。



いろいろあったが、これが、阿貴、唯貴、秀人の三人の出会いだった。



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