1-3 宇都宮阿貴


秀人より少し遅れてJRを下車したその少年は、人ごみを掻き分けて全力疾走でバスターミナルを目指していた。
同じ中学の友人と待ち合わせの約束をしておきながら、今日に限って自分のほうが遅れてきていたのだ。


よりによってこんな日に僕のほうが遅刻してくるなんて。


「こんな日」だからかもしれない。
今日は大事な高校受験の日。彼は前夜、独特のプレッシャーの為になかなか寝付けずにいて。
どうにかして過不足なく眠れたはいいものの、目が覚めたときには既に家を出なければならない時間をわずかにだが過ぎていて。
大慌てで家から駅まで全力疾走。
そして降りてからも現在全力で走っているのである。

あいつ、待っててくれてるかなあ……

いつも自分がそうしているように。

そして。
ターミナルに降りてきた彼は、今まさにバスに乗り込もうとしているその友人の姿を認め、
慌てて走るペースを上げた。
だが。
彼が乗り場に着くより一瞬早くそのバスの扉が閉まり。
友人を乗せて彼を置き去りに走り去ってしまった……

置き去りを食らった少年の名は、宇都宮阿貴。
今、彼は乗り場の前のベンチに座り、所在無くバスの時刻表を見上げていた。
「ふう…」
一つ、ため息をつく。
とてもとても寒い時期。吐く息が白く、それが虚空に舞う。
「自分はいつもいつも遅れてきて僕を待たせるくせに、自分が待ってるのは嫌だってか?」
それも、たかが5分ほどの時間。
通勤、通学時間帯のこと、次のバスなどあっという間にやってくるのに。
だが、今回に限っては阿貴も人の事を言えない。
だから、心の中で先にさっさと行ってしまった友人に毒づいてみる。

着いたらあいつに一言文句言ってやる。

阿貴はそう決めて、次のバスを待った。


to be continued…

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